「私にとってVENUE|S6Lは 、ピアノで言うところの“スタインウェイ”ですね 」押谷征仁
オペラやオーケストラ、バレエを中心に、国内外のアーティストの公演を幅広く上演する滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール。美しい琵琶湖に面したこのホールは、大ホール、中ホール、小ホールの3つで構成され、そのすべての常設コンソールとして、Avid VENUE | S6Lを採用している。また大ホールにはFLUX:: SPAT Revolution Ultimateを、中ホールにはYAMAHA AFC Image、AFC Enhanceを導入しており、イマーシブに対応しているというのも特筆すべき点だ。びわ湖ホール舞台技術部の押谷征仁氏、システムの実施設計を担当したヤマハサウンドシステムの河野峻也氏、Avid製品とその周辺を担当したリワイアーの宮村公之氏に、オペラを主軸にしたホールの音作りとVENUE | S6Lの魅力について、話を聞いた。
200Hz付近の基音がしっかりしている
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールがオープンしたのは26年前にさかのぼる。押谷氏によると、大ホールは当初からオペラを上演する劇場として設計されたそうだ。
「大ホールの壁はサクラ材、床はナラ材という密度の高い木を使用して音の反射率を高めています。この建築音響の自然な響きに、いかにうまく電気音響をプラスしていくか。これがなかなかテクニックを要するんですよ」
現在びわ湖ホールでは、大中小すべてのホールのメイン・コンソールにAvid VENUE | S6Lが採用されている。VENUE | S6Lが最初に導入されたのは小ホールだ。
「小ホールでは、通常の公演のほかにレコーディングをよく行うんです。コロナ禍では、ホール専属のびわ湖ホール声楽アンサンブルに小学校の校歌を歌ってもらい、CDにして各校に配布しました。Avid Pro Toolsでマルチトラック・レコーディングができるので重宝しています。公演の際にも録音しておけば、アーカイブとして残すことが可能です」
押谷氏は「私はVENUE | S6Lの音が好きなんですよ」と続ける。
「私にとってVENUE | S6Lは、ピアノで言うところの“スタインウェイ”ですね。“たとえ高額でも良い音の機材を導入したい”という思いが強いんです。音は200Hzくらいの基音がしっかりしていて、エッジは立ちすぎておらず丸みがあり、高域の伸びと、つややかさもあります。硬い音の卓をオペラの音響で使うと、電気音の感じが強調されてしまうので、VENUE | S6Lの音は、オペラとの相性が良いように思いますね」
リワイアーの宮村氏も、「前モデルのVENUE Profileから内部のあらゆるデバイスが時代に沿う進化を遂げ、サウンドに磨きがかかりました」と続ける。
「オペレーターの操作がそのまま音になるというのも特徴です。“音はオペレーターが作るものであり、メーカーの色付けは不要である”という考え方が現れているように思います」
押谷氏は、96kHzで処理されるAAX DSP規格のプラグインを使用できるのも、導入の大きな決め手になったと話す。
「オペラは生音が重要なので、“音響エンジニアが音を作っている”という見方をされてはいけません。生音の響きを自然に増強するには、解像度の高いプラグインを使う必要があるんですよ。我々は“いかに良い音を小音量で出すか”というところで闘っているので、小さな音でも解像度が高いというのが重要なんです」
ヤマハサウンドシステムの河野氏いわく、VENUE |S6Lには、トラブル時に役に立つ本機ならではの機能があるという。
「VENUE | S6Lは、コントロール・サーフェスとエンジンを接続するだけでファームウェアのバージョンを合わせてくれます。エンジンの故障などのトラブル時に迅速に対応できますね。また、コントロール・サーフェスを各モジュールごとに交換できるのも良いです」
SPATもプラグインとして使用
大ホールには、イマーシブ3Dオーディオ・アプリケーションFLUX:: SPAT Revolution Ultimate(以下SPAT)が導入されている。その経緯を押谷氏に尋ねよう。
「オペラなどのクラシック音楽の場合、舞台上の音がそのまま自然に聴こえてくるというのが理想なんです。客席のどこにいても同じように聴こえるようにしたいので、現在の最新技術である波面合成を取り入れたSPATを導入することにしました。チューニングは、FLUX::のヒューゴ・ラーリンさんにお願いしています。仕上がりはすごく良いですよ。舞台上の演者の声がそのまま聴こえてくるようで、作品への没入感が高まりました」
ここで技術面について宮村氏が補足する。
「ラインアレイをフロントに5本並べて、ステージ上の歌手の並び順や距離に応じた時間軸と位相特性を正しく反映して音を出してあげると、それが生音に付加され、お客様の耳に届くときにも自然なんです。VENUE | S6LであればSPATはプラグインとして使用でき、S6Lからも操作できるんですよ」
SPATを導入するというのは当初の予定にはなく、ラーリン氏のプレゼンに感銘を受けた押谷氏が急遽入れたいと言い出したそう。「押谷さんはいつもすごく壮大なことをおっしゃるんです」と話す宮村氏に続き河野氏も、「追いつくのが大変です」と笑顔で返す。
「当時弊社ではまだSPATの納入事例はありませんでしたし、中ホールに導入したYAM AHA AFC Imageも、常設設備に入れるのは初めてでした。どのように実現し、さらには安定して使っていただけるようにシステムを組むか、非常にやりがいのある仕事でしたね」
最後に押谷氏が自身の取り組みに対する思いを語ってくれた。
「この業界、夢がありますよね。日々新しい技術が生まれ、提供できるパフォーマンスも更新されていく。“この時代でしかできない作品の作り方”というものが、この先100年も200年もずっと続いていくんです。今実現できるものをいかに良くしていくかというのが、僕らの一番のコンセプトなのだろうと思います」
VENUE|S6Lに 新エンジン&ソフトウェアが登場
チャンネル数が最大となるエンジンVENUE|E6LX-256
これまでのVENUE|S6Lのエンジンは、入力チャンネルが192のVENUE|E6L-192、144のVENUE|E6L-144、112のVENUE|E6L-112の3タイプをラインナップしていた。このたび新たに加わったVENUE|E6LX-256は、256の入力、64×64のマトリックス、192の出力バスを備え、ラインナップの中でチャンネル数が最大のモデルとなった。安定性と保守性の向上のためにハードウェア設計も強化され、複雑なセットアップが必要となる大規模イベントにも対応可能だ。
ワークフローを改善したソフトウェアVENUE 8.0
エンジンVENUE|E6LX-256に対応し、バーチャル・サウンドチェックの最大トラック数が256に倍増。また、新しいオプションとしてAVB-HDモードが追加されており、MLN-192カードでこのモードを有効にすると、1本のイーサーネット・ケーブルを経由して、96kHzで最大216×216chのAVBレコーディングが可能となった。そのほか、イベント・システムの機能が拡張され、複数のモニター・ミックスを設定して出力できる機能や、VENUE発売当初から要望の多かったオートミックス機能も追加された。ワークフローも前バージョンから改善されている。