AUSTRIAN AUDIOのフラッグシップ・コンデンサー・マイクOC818。前後のダイアフラムを使ったデュアル出力に対応するほか、無償の専用プラグインPolarDesignerでの録音後の指向性変更にも対応。さらに、2台のOC818を使ってM/SやAmbisonics方式の音源生成も行える。ここでは、OC818を愛用するエンジニアの新保正博が登場。OC818の導入がもたらした有用性について語ってもらった。
撮影:小原啓樹
高域から低域まですごくナチュラルなので、アコースティック系やクラシック系の楽器にはすべて使いたい
同じテイクで指向性を変えて何度も聴き比べられる
OC818は、録音後に指向性が変えられるのが面白くて買いました。それまでマイクの位置や種類を変えることはあっても、指向性を途中で変更することはありませんでした。レコーディングではテイクごとに演奏も変わるので、PolarDesignerを使って同じテイクで指向性を切り変えて聴き比べられるのは本当に勉強になります。以前は僕の中になかった“スーパーカーディオイドで録る”という選択肢が出てきたり、OC818以外のマイクを扱うときの引き出しも増えました。
指向性は帯域ごとに変えられるので、特にピアノやアコギの録音で重宝しています。ピアノでオムニ(無指向)のマイクを立てると、広がりが出るのと同時にローも膨らんでしまいますが、OC818で録って低域をカーディオイド、高域をオムニにすることで、低域を膨らせまずに高域をふわっと広げられるんです。アコギでは、アルペジオをオンで録りたいときに低域をハイパーカーディオイド、高域をカーディオイドにすることで近接効果で低域が膨らんでしまうのを避けられます。
2台のOC818を使った“トゥルー方式”のM/S収録
OC818を導入した頃、僕はM/S方式をいろいろなマイクで研究していた時期でした。サイドの音を強めに出すとスピーカーからはみ出るので、オケに混ぜると臨場感が出て面白いんです。そこで、OC818を2台使うと前後左右の音を収録してプラグイン(StereoCreator)で演算する“トゥルー方式”のM/S録音ができるのも導入のきっかけでした。
トゥルーM/Sはアンビエンスに使うことが多いですが、オンでも使えます。例えば、エレキギターは通常モノラルで収録することが多いと思いますが、2本のOC818をアンプにオンで立てて録ってトゥルーM/Sで処理することで、ギター1本のバンド・レコーディングでも、広がりのある音像を収録することができます。ほかにも、8型のストリングスをデッカ・ツリーと並べて録ったときは、M/S方式で録ったOC818の音のほうがハマりが良かったので、OC818がメインになりました。もう一つのプラグインのAmbiCreatorも試します。Ambisonicsにすると、その楽器の中心で聴いているような印象を受けますね。
OC818の音質は高域から低域まですごくナチュラルなので、アコースティック系やクラシック系の楽器にはすべて使いたいくらいです。脚色がないのでハイが強いボーカルに使っても痛くならずになじみますし、歌手の方にも歌いやすいと言われることが多いです。今後は、大きい編成のストリングスに全部OC818を立てて録ってみたいですね。