録った時点で音作りがほぼ完了
それくらい録り音の完成度が高いんです
1985年、デジタル録音黎明期にカリフォルニアで誕生し、40年にわたり音楽制作の現場に革新をもたらしてきたオーディオ機器ブランドApogee。独自のAD/DA技術やマスター・クロックによるジッター対策をはじめ、近年はボブ・クリアマウンテンとの共同開発によるプラグイン群のほか、イマーシブ制作にも対応するオーディオ・インターフェースまで幅広く展開している。
ここでは、エンジニアの中村公輔のインタビューを通じて、制作現場での活用法や評価ポイントを掘り下げてみよう。
Users' Impression:中村公輔
Apogeeとの出会いは30年ほど前。紫色のフロント・パネルが特徴的なAD-8000でした。当時、ADコンバーターとしては非常に高級で、まさに憧れの存在。スタジオにAD-8000があるだけで“音質にこだわりのある、良いスタジオだな”と思われるほど、Apogeeを象徴する製品だったと思います。
初めて自分がApogee製品を導入したのはSymphony I/O MkⅡ。それ以前にも、2000年代前半、初めての商業レコーディングの現場でAD-16とDA-16を使用した経験があります。プロデューサーのカナイヒロアキさんが自ら持ち込んでおり、その音質は明らかにハイファイでより高品位な録音を目指していたことがうかがえました。
その後、自分がSymphony I/O MkⅡを購入するきっかけになったのは、ライアン・フリーランドがリズ・ライトのアルバム『グレイス』のミックスで使用していたから。非常に音抜けが良いことに感激し、使用機材を調べたらSymphony I/O MkⅡと書いてあったんです。そのほか、サミング・ミキサーなどは自分と同じ環境だったので“これは試してみるしかない”と思い、導入しました。その結果、まさに期待通りの質感になったんです。
今ではギターやボーカルなどの録音はすべてSymphony I/O MkⅡを通して行っています。録った時点で音作りがほぼ完了しているため、ミックスではフェーダーだけで済むこともあります。それくらい録り音の完成度が高いんです。またフロント・パネルのヘッドホン出力から得られる音も非常に良質で気に入っています。
自分はApogeeのプラグインも大好きで、ボブ・クリアマウンテン・シリーズは全部使っています。特にClearmountain's Domainはかけるだけで1980年代の質感そのものに。中でもリバーブの実機感が素晴らしいです。
これから音楽制作に取り組む方、または最近始めたという方に伝えたいのは、“録った音が良ければミックスは楽になる”ということ。これは事実です。初心者こそ、最初から良いオーディオ・インターフェースやAD/DAコンバーターを使うべきだと思います。ミックスの悩みの多くは録音段階のクオリティに起因していることがあるため、一度良い機材で録ってみることで、見える世界がきっと変わることでしょう。
Apogeeは本当に信頼できるブランド。これからもハイクオリティな製品を作りつづけてほしいです。応援しています。