井上幹(WONK)がAKGの開放型ヘッドホンK812&K712 PROをレビュー

井上幹(WONK)がAKGの開放型ヘッドホンK812&K712 PROをレビュー

K812は今まで聴こえなかった新たな発見がある。K712 PROは初めての開放型ヘッドホンとしてもお薦めです

オーストリアのウィーンで誕生したAKG。スタジオ用のマイクやモニター・ヘッドホンなどで知られ、伝説的な機種から現行の製品まで、幅広くプロに活用されている。この連載では現行の製品にフォーカスし、あらためて魅力を探る。第3回は、エクスペリメンタル・ソウル・バンドWONKのベーシストで、コンポーザー、ゲーム・サウンド・デザイナー、ミックス・エンジニアとしても活動する井上幹に、開放型ヘッドホンK812とK712 PROの2機種を試してもらった。

Overview|AKG K812 & K712 PRO

AKG K812(写真左)、K712 PRO(写真右)

AKG K812(写真左/159,800円)、K712 PRO(写真右/34,800円)

K812:ドライバー・ユニットはAKG最大の53mm径、周波数特性は5〜54,000Hzという驚異的なスペックを持つ開放型ヘッドホン。専用の木製ヘッドホン・スタンドが付属する。

K712 PRO:40mm径ドライバーを備える開放型ヘッドホン。周波数特性は10〜39,800Hzで、イヤー・パッドは手洗い可能なベロア製、ヘッド・バンドは耐久性が高い本皮製だ。

Dolby Atmosミックスにも適するK812

 普段の制作は、最終チェックを除いてほぼヘッドホンで行っています。環境に左右されず、常に同じ音を聴けるので信頼度が高いです。また、基本的には開放型を使っています。特定の帯域に偏らず、全体を見渡せるのが開放型の利点と思っていて、それが自分には合っていると感じているからです。

 今回K812を試してみて、まず思ったのはすごくキャラクターがあるヘッドホンだなと。高域が割と前に出てきていて、クラシック音楽のストリングスの弦と弓がこすれる音とかが際立って聴こえてきましたね。そして、ダイナミクスにしても周波数にしても、とにかくレンジが広い。周波数特性が5〜54,000Hzとはどういうこと?って(笑)。最初は戸惑うかもしれないですが、慣れれば使いやすいと思います。最近の音楽は低域から高域までみっちり使われていますしね。また、さまざまな楽器のニュアンスまで調整するオーケストラには特に向いていると思います。定位も明瞭だし、リバーブのテイルまでよく確認できるので、空間も作りやすいです。

 イヤー・パッドは耳の形に合わせた切り方になっていて、装着感が快適です。398gとやや重めですが、着けていて重い印象はさほどありませんでした。あとはリスニングにもお勧め。迫力があり、今まで聴こえていなかった音が聴こえて、新たな発見がある。インピーダンスが32Ωなのは、さまざまな再生機器の使用が想定されているからではないでしょうか。

K812

K812

 また、イマーシブ・スタジオでWONKのDolby Atmosミックスをしたときの聴感と近いことに驚きました。ローエンドまでワイド・レンジなのがポイントで、ヘッドホンでDolby Atmosミックスを作ると、スピーカー/ウーファーから鳴らしたときとの差が大きいこともよくある。K812くらい低域が分かりやすいと、高い精度で作り込めると思います。

K712 PROは誇張なく聴かせてくれる

 K712 PROは、慣れ親しんでいるモニター・サウンドだと感じました。良い意味でキャラクターが薄く、誇張なく聴かせてくれます。その中でも特徴と思ったのは、定位感がハッキリしている点。それと、中域、ボーカル以下の帯域がちゃんと聴こえるところが良いです。ボーカル入りの楽曲においては、そこが聴こえるかどうかが重要なんです。

 イヤー・パッドが大きく、耳がスッポリ入るため安定しています。着けた後にズレたりすると、それで音も変わってしまいますからね。スライダー部分がゴムなので、外して調整しなくても頭に合わせられるのがとても便利です。

K712 PRO

K712 PRO

 開放型を使ったことがない方の入口としても良さそう。密閉型から移行すると、キャラクターやパンチがなくなるという不安があるかもしれませんが、低域がよく見えて、変なピークもない。曲作りからミックスまでお勧めですね。

製品情報

AKG K812

AKG K712 PRO

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