360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)は、ソニーの360立体音響技術を活用した音楽体験。この“360 Reality Audioメイキングラボ”では、その制作を手掛けるエンジニアやクリエイターのノウハウを深掘りする。今回は韓国の8人組Kポップ・グループ8TURNを紹介。Amazon Music Unlimitedでの360 Reality Audio配信に加え、YouTubeでは全5曲の360 Reality Audio版ミュージック・ビデオが公開されている。ここではメンバー全員からのコメントと、360 Reality Audio制作を手掛けたエンジニアのキム・ヨンウンへのインタビューを通して、その制作の裏側をたどる。まずはメンバーから届いたコメントを紹介しよう。
取材協力:ソニー
作品情報:8TURN『LEGGO』
8TURN『LEGGO』
(ソニー)
楽曲を聴く
お手持ちのヘッドホン/イヤホンでお楽しみください🎧
「LEGGO」「Like a Friend」「You Are My Reason」「RU-PUM PUM」「I Want You Now」を“360 Reality Audio MIX ver.”として配信。上記リンクより再生できる。
ミュージシャンが語る360 Reality Audio
頭の先から足元まで包み込むように音が広がる


ジェユン(左)「今回360 Reality Audioで僕たちの曲を聴いてみて、新しい世界を知れたのがうれしかったです。一つ一つの音をすごく繊細に感じて、自分の耳の感覚をフルで使っているような気分になりました」
ミョンホ(右)「頭の先から足元まで360°包み込まれるように音が広がって不思議な感覚でした。「RU-PUM PUM」のミュージック・ビデオは、花火やドアが開く音などの効果音が加わっていて面白かったです」


ミノ(左)「360 Reality Audioは世界的なアーティストともコラボしていて、特に僕が好きなオリヴィア・ロドリゴさんとのコラボ映像が感慨深かったので、Kポップ・アーティストとしてこの企画に参加できてうれしいです」
ユンソン(右)「自分たちの曲を360 Reality Audioで聴いたら、まるで楽器一つ一つが生きて動いているような感覚で、全く印象が違いました。ボーカルや楽器の距離感や立体感、音の強弱まで全部リアルに感じられました」
音が“見える”ような感覚


ヘミン(左)「音が目に見えるような感じがして、映像の中に自分が入って、音に包まれた空間の中にいるような不思議で新鮮な体験でした。音の世界に引き込まれるようなワクワク感がありました!」
ギョンミン(右)「360°にスピーカーがあるようにサウンドが広がってライブ会場にいるような感覚になりました。僕は自宅に立体音響を楽しめる部屋を作るのが夢なんです。最近は360 Reality Audioを聴いて楽しんでいます」


ユンギュ(左)「360 Reality Audioで音楽を聴くとその世界に入り込んだような気分になります。音が“見える”ような感覚がすごく不思議でした。これが日常の中でずっと使えたら音楽を聴く楽しさがもっと広がると思います」
スンホン(右)「音が360°から立体的に聴こえて、普段は気づかないような音までしっかり聴こえた気がしました。ヘッドホンで聴く音の感じやイヤホンみたいに耳に突き刺さるような感じもなくて聴き心地が良かったです」
エンジニアが語る360 Reality Audio
ドラマ制作の手法で360 Reality Audioを最大限体験できるように
続いて、8TURNの360 Reality Audio制作を手掛けたエンジニアのキム・ヨンウンに話を聞いてみよう。彼が拠点とするのは、韓国にあるSOUNDRAGON Studioだ。
歌いながら映像に入るようにカメラの動きを調整
イマーシブ制作の経験はあるものの、360 Reality Audioの制作は初めて手掛けたというヨンウン。
「僕にとってイマーシブ制作は絵を描くみたいな面白い作業です。イマーシブ・フォーマットの中でも、360 Reality Audioは下にも音が配置できるので特に立体的に感じます」
360 Reality Audioは独学で習得したというヨンウン。
「韓国では360 Reality Audioを作っている人がまだ少ないので、YouTubeを見て勉強したり、同じ素材で360 Reality AudioとDolby Atmosを作って違いを比較したりしてきました。360 Reality Audio制作ツールの360 WalkMix Creator™は、1つのプラグイン内ですべてができるから作業が早く進められますね」
YouTubeで公開中の「I Want You Now」 Special Video (360 Reality Audio MIX ver.)は、ヨンウンがレコーディングからミックスまで手掛けた1曲だ。
「制作初期の、プロデューサーや映像制作会社とのミーティングから参加しました。一番重視したのはカメラの動きです。普通は映ってから自分のパートを歌いますが、歌いながら映像に入ってくるようにしたかったので、カメラの動きを少し遅くしてもらい、歌の後から動いてほしいと頼みました」
加えて、映像作品ならではの手法を取り入れたという。
「通常ミュージック・ビデオではその曲の音だけが流れますが、今回は映像の動きに合わせていろいろな効果音を作りました。ドラマ制作のような手法ですね。360 Reality Audioを最大限体験できるように、ほかの人がやらないことをやりたかったんです。効果音制作には、映像作業によく使われるプラグインのKROTOS Krotos Studioを使って効果音やリバーブ、アンビエンスや靴の音、「RU-PUM PUM」で最後に流れる花火の音などを作り、映像に合わせて後から入れました。「Like a Friend」のカメラがシュッと動く音などKROTOSで作れなかった音は効果音専門の監督に作ってもらいました」
ボトム・スピーカーがあると聴こえ方が違う
現在公開中の360 Reality Audio版ミュージック・ビデオは全5曲。「I Want You Now」以外は、ステレオのステム・データを元に360 Reality Audioを作成したという。
「クライアントによってはステレオのバランスに合わせてほしいという注文もあるので、イマーシブ・ミックスをするときはステレオ音源を聴いてパンニングなどを分析します。8TURNの事務所の社長とは付き合いが長いのですが、“いろいろトライしてほしい”というリクエストがあったので楽しんで作業できました。例えば、「You’re My Reason」は2ミックスのステムのトラック数が少なかったので手を加える方法が限られていたのですが、ブリッジでボーカルが横から聴こえるようにして変化を付けてみたりしたんです」
最終仕上げは日本で実施。乃木坂にあるソニー・ミュージックスタジオのMastering 3で行われた。
「自分のスタジオの7.1.4chでも立体感をずいぶん感じていたので自信満々でデータを持って行ったのですが、ボトム・スピーカーがある環境だと音が違いましたね。日本での最終確認には、ソニーのヘッドホンMDR-MV1を使いました」
最後に、ヨンウンの今後の展望を聞いてみよう。
「今回はグループの楽曲だったので、全員が前に出ることを重視しましたが、ソロ・シンガーの作品の音作りも面白そうです。日本の皆さんからのお仕事もお待ちしています!」
Studio:SOUNDRAGON Studios
韓国・ソウルに位置し、キム・ヨンウンが拠点とするSOUNDRAGON Studios。360 Reality Audio、Dolby Atmosの制作にも対応する7.1.4chのシステムを構築。モニター・スピーカーはGENELECで統一されており、正面には8351B、サイドとトップには8341Aを採用。サブウーファーは7370Aが導入されている。
360 Reality Audio制作テクニック
「LEGGO」360 WalkMix Creator™全景
Point:音楽として違和感なく聴かせつつリズム系トラックを動かし続ける
「LEGGO」の360 Reality Audioでは、金物のパーカッシブな音を含むリズム系トラック(下画面の緑色のオブジェクト)が曲の最初から最後までずっと動き続けている。ヨンウンは「動きを付けることではなく音楽を聴いてもらうことがメインなので、意識したら動きを感じるけれど、意識しなければ気にならないくらいような違和感のない範囲で動かしました。絵を描くように試してみて、オブジェクトが動く速さやパンニングを調整しました」とその過程を話してくれた。