360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)は、ソニーの360立体音響技術を活用した音楽体験。この“360 Reality Audioメイキングラボ”では、制作を手掛けるエンジニアやクリエイターのノウハウを深掘りする。今回取り上げるのは、プロデューサー/トラック・メイカーのGeGのコンピレーション・アルバム『Mellow Mellow ~GeG's Playlist vol.2~』。GeGが長年タッグを組むエンジニア渡辺紀明との対談でその制作の様子を語ってもらった。
Photo:小原啓樹 取材協力:ソニー
作品情報:GeG『Mellow Mellow ~GeG's Playlist vol.2~』
GeG『Mellow Mellow ~GeG's Playlist vol.2~』
(Goosebumps Music)
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お手持ちのヘッドホン/イヤホンでお楽しみください🎧
試聴会情報
『メロメロライブvol.3 at 豊洲PIT 上映会』
日時:2024年9月8日(日)
時間:Open:15:00/Close:20:00
場所:大阪北港マリーナHULL
詳細は下記URLより『メロメロライブ上映会特設サイト』をチェック!
ミュージシャン&エンジニアが語る360 Reality Audio
360 Reality Audioの広いキャンバスを埋めていく作業が楽しい
“面にする”と教えてもらった瞬間から面白く
GeG、渡辺ともに360 Reality Audio制作を手掛けるのはこれが初めてだという。GeGにその第一印象を尋ねよう。
「スタジオで360 Reality Audioを初めて聴いたときに、低音があってドシッときたので、“これがヒップホップでできるなら僕もやりたい”と思ったんです」
今回は、GeGの作品のほぼすべてをミックスしてきた渡辺とタッグを組み、コンピレーション・アルバム+ライブ音源を全40曲ほど360 Reality Audioとして仕上げたという。その作業の流れについて「GeGさんがプロデューサーなので、一緒にやっている感覚に近いです」と話す渡辺。「僕が基礎的なものを手探りで作って、GeGさんにパンニングやミックスの調整をしてもらい、それを突き詰めていきます」と続ける。
その“手探り”の作業についてGeGはこう話す。
「360 Reality Audioは、まだ誰も“これが正解”というのを導き出していないと思うんです。経験のあるエンジニアの方から、それぞれの音を点ではなく“面にする”と教えてもらった瞬間から面白くなりましたね。ステレオより広い360 Reality Audioのキャンバスを埋めていく作業が楽しいです」
その経験者の一人は、ソニー・ミュージックスタジオのエンジニア、奥田裕亮だったという。
「収録曲「EDEN」は奥田さんが手掛けたYOASOBI「怪物」の360 Reality Audioを参考に、キックのステレオ・オブジェクトを2組用意し、発音のタイミングに合わせて前後、左右に動くようにしたんです。アタックのときとリリースのときでオブジェクトの位置が変わることで、ピークを分散させつつ面を作る効果が得られるんです。そのほか、耳の横を通った音は大きく聴こえるので、ギターのアルペジオやシンセのリフなど、聴かせたい音は耳の横を通しました」
合唱するファンの歌声が360°から聴こえる
モニターには、GeG、渡辺ともにソニーのヘッドホンMDR-MV1を使用。GeGは「低音も良いし最高です。小さいスピーカーで作業しても、MDR-MV1で確認すれば大きいスピーカーで聴いたときに問題ないですね」と話すと、渡辺は「“今の音”にすごくマッチしていて、音がちゃんと作れているかを判断しやすい。個人的にヘッドホンが20年くらい前から苦手だったのですが、MDR-MV1は良かったです。今回の制作での良い出会いでした」とその感動を語った。
9月8日には、今年1月に行ったライブ『GeG メロメロライブvol.3』上映会を大阪で開催。今回制作したアルバムと選曲したライブ音源の360 Reality Audioをスピーカーで体験できる。「ライブ音源は360 Reality Audioの醍醐味(だいごみ)ですね」とGeG。「うちのバンドは大所帯でメンバーも多いので、ステレオでは出せない臨場感が出ます。特に「Merry go Round」は会場の前後左右にマイクを立てて収録して、合唱するファンの歌声が360°から聴こえるようにしたので、聴いてもらったら感動すると思いますよ」と続けた。
最後にGeGは360 Reality Audioについて「音楽の未来だと思います。僕はそれを体験してくらった1人なので、ぜひみんなも体感してほしいです」と期待をのぞかせた。
「EDEN」360 Reality Audio制作テクニック
ミックスのテーマ:オブジェクトをクロスさせて面を作る
ここでは、『Mellow Mellow ~GeG's Playlist vol.2~』収録曲より「EDEN」をピックアップ。全48個のオブジェクトから成るこの曲は、元から少ないトラック数で構築されていたため、キックやシンセ、ギターなど各音色オーディオ・トラックを複製してオブジェクト化。渡辺によるミックス作業後には、GeGが数値でなく、聴覚的に判断してオブジェクト配置を調整をしたという。
Point:キックのオブジェクトをアタックの瞬間に合わせて広げる
下の画面の底面付近に配置された4つの黄色いオブジェクトに注目。これは、2組のL/Rのキック・オブジェクトを横方向(青枠)と縦方向(赤枠)にクロスさせて配置したものだ。楽曲中のキックが鳴るタイミングに合わせて、これらのオブジェクトは1組が左右(青枠)、もう1組が前後(赤枠)に動くように設定されており、4つすべてが同時に動き、同時に4点で同一のキックが鳴ることで、キックを“点”でなく“面”で聴かせることが狙いだという。この手法は、「EDEN」をはじめ、今回GeGと渡辺が制作した360 Reality Audioのほとんどの作品で活用。キックに限らず、ボーカルやベースなどでも使われ、GeGの表現する「ステレオより広いキャンバス」の中に音を広げるために使われている。
Studio:ソニーシティ大崎 L05C
GeG『Mellow Mellow ~GeG's Playlist vol.2~』の360 Reality Audioは、ソニー・ミュージックスタジオでの2日間の制作作業を経て、ソニーシティ大崎内に位置するスタジオL05Cで最終仕上げが行われた。このL05Cは、360 Reality Audio、Dolby Atmos、360VMEのデモおよび制作ができるスタジオとして構築されている。360 Reality Audioのモニター環境は、半径2.3mの円周上に設置された15台のGENELEC 8341A。そのほか、サブウーファーのGENELEC 7350APMが2台設置されている。