NEUMANN CEOが明かすブランドの未来 〜最新プラグインRIMEがイマーシブオーディオ制作にもたらす変化

Yasmine Riechers

昨年4月にNEUMANNのCEOに就任した、ヤスミン・リチャーズ氏が来日。編集部は、NEUMANNの現在のビジョンや、先日発表されたイマーシブオーディオのモニタリングをNDHヘッドホンで可能にするDAWプラグイン、RIME(Reference Immersive Monitoring Environment)について、詳しい話を聞くことができた。

NEUMANNのミッションは“レコーディング分野をさらに強化すること”

ヤスミン・リチャーズ

-昨年NEUMANNのCEOに就任されましたが、それまでのキャリアを教えてください。

ヤスミン 私がCEOに就任したのは昨年4月のことですが、SENNHEISERグループには約10年在籍しています。中国支社でカントリーマネージャーを務めた後、パンデミック期間中に本社へ移り、2021年末にコーポレート・ディベロップメント・オフィスで事業戦略とすべてのグループプロジェクトを担当しました。SENNHEISERに勤める前は、中国で3年間、別の分野のドイツ企業で働いていたのですが、実は私はヴェーデマルクというSENNHEISER本社があるハノーファーに近い小さな町の出身で、両親の生家は本社の向かいにありました。祖父や祖母、叔父も、ハノーファー本社で勤務した経験があったのです。しかし、街の中央に工場があり、幼い私はフェンスの向こう側を見ることができなかったので、SENNHEISERがどれだけ大きい国際的な企業かを知りませんでした(笑)。

−SENNHEISERグループは、3Dオーディオソフトウェアを開発するDear RealityやプロオーディオメーカーのMerging Technologiesを傘下に収め、事業範囲を広げています。グループ内におけるNEUMANNの位置付けをどのようにお考えですか?

ヤスミン NEUMANNは1991年にSENNHEISERグループに加わりましたが、30年以上にわたって独立性を維持してきました。ご存じのように、NEUMANNはレコーディングやスタジオの制作環境に重点を置いています。マイクはもちろん、現在はモニタースピーカーやオーディオインターフェースにも注力しており、レコーディングの領域においてはMerging Technologiesと共に、音の入口から出口までのシグナルチェーンを担っていると言えましょう。一方でSENNHEISERは、会議室や教室などの設備分野にも注力しており、放送やステージなどの分野でNEUMANNと共存しています。その点からも分かるように、両社の違いは明白です。やはりNEUMANNのミッションは、マイクやモニタースピーカー、ヘッドホンといった、レコーディング分野をさらに強化することなのです。

ヤスミン・リチャーズ

−NEUMANNはマイクメーカーとしてスタートしましたが、モニタースピーカーのKHシリーズやオーディオインターフェースのMT 48など、近年では新しい分野の製品も増えていますね。

ヤスミン NEUMANNは創業当初から、マイクだけでなくレコーディング分野全体を見ています。1928年にゲオルグ・ノイマンが会社を設立したとき、彼はサウンドが可能な限りリアルに録音できるようにしたいと考えていました。彼はマイクだけでなく、アナログ盤のカッティングマシンも作りましたし、そのためのマスタリング機器も生み出していました。NEUMANNは既に、レコーディング現場のシグナルチェーンを構築していたのです。そして現在ではテクノロジーの進化によって、ゲオルグ・ノイマンが目指した“可能な限りリアルな録音”に、より近づくことができるようになっています。

NEUMANN KH 80 DSP A G

NEUMANN KH 80 DSP A G

MT 48

MT 48

−アナログ盤の需要が増えてきていますが、カッティング・マシンの再生産を望む声もあるのでは?

ヤスミン 私は1月に訪米して、Third Man MasteringというスタジオでVMS 70が稼働しているところを見てきました。VMS 70のような古いNEUMANNのカッティングマシンや、NEUMENNのビンテージマイクが今でも使われているのは本当にクールだと思います。カッティングマシンについては、市場規模はそこまで大きくはないものの、一定の方々にお使い頂いているのはとてもうれしく思います。

NDHヘッドホンでKHモニターの音を再現するRIME

−先ごろNEUMANNは、RIMEというソフトウェアを発表されました。これはヘッドホンでイマーシブのモニタリングが行えるというものですね?

ヤスミン NEUMANNにはバイノーラル・マイクKU 100がありますし、モニタースピーカーのKHシリーズで、イマーシブ環境を構築することができます。しかしこれは、“制作者がスタジオを持っている場合”に限られるわけです。今回発表したRIMEは、ヘッドホンでNEUMANNのモニターシステムを再現できるプラグインと言えます。RIMEを使用すると、KHシリーズでモニターすると全く同じ音をヘッドホンで聴くことが可能です。つまり、スタジオで聴いていた環境を自宅やホテルに持ち帰り、ミックスを続けることができます。ツアー中のアーティストにDolby Atmosのミックスの確認をしてもらうこともできますし、学生がヘッドホンでイマーシブ作品を制作することも可能になります。

−RIMEはNEUMANN製のヘッドホンの使用を前提にしているそうですね?

 ヤスミン はい、その通りです。KHモニターは、KH 80、KH 120、KH 310、KH 420といったラインナップのすべてにおいて同じ周波数特性を実現しており、どれも全く同じサウンドです。そして、ヘッドホンのNDH 20やNDH 30の周波数特性は、KHモニターと一致しています。そこが私たちの強みです。

−NEUMANNのスピーカーとヘッドホンを前提とすることで、サウンドの一貫性に重点を置いているわけですね。

ヤスミン その通りです。スタジオでのKHモニターのサウンドを、NDHヘッドホンで聴くことができる。それこそが、私たちが時間とエネルギーを費やしている部分です。

NDH 20

NDH 20

−RIMEは、SENNHEISERグループのイマーシブ製品ブランド、AMBEOのテクノロジーを反映したものでしょうか?

ヤスミン はい。RIMEはSENNHEISERグループの協力の下でのプロジェクトです。NEUMANNが求めるサウンド水準を満たしたスタジオを測定し、プラグインでそのサウンドを再現できることを確認しました。私たちはグループ内のリソースを使用して、テストとソフト制作を進めたのです。

NEUMANNマイクはどの2本を選んでもペアリングできる

−SENNHEISERの共同CEO、ダニエル・ゼンハイザー氏は、来日時に「SENNHEISERグループが取り組んでいることはユーザーの問題を解決することだ」と語っていました。この点について、NEUMANNではどうお考えでしょうか?

ヤスミン NEUMANNにとってもそこが鍵であり、今回の来日の目的でもあります。日本のNEUMANNユーザーや販売店がどのように発展し、市場を見つめ、またイマーシブにどう取り組んでいるのか。その情報をドイツへ持ち帰り、可能な限りユーザーの問題を解決できるようにします。私たちの製品開発は、それ自体を目的にしているわけではないのです。MT 48が良い例で、RAVENNA/AES 67に加えてDanteに対応するといったアップデートは、お客様の声を反映したものものです。

ヤスミン・リチャーズ

−M 49やU 47 FETなどの伝説的なコンデンサーマイクの復刻版をリリースされましたが、それらもユーザーからのリクエストがあったからでしょうか?

ヤスミン 私たちは、世界中、特に日本で、NEUMANNのビンテージマイクが愛されていることを理解しています。一方で多くの場合、真空管の確保が問題となります。ビンテージの真空管は、今日入手できるものとは大きく異なりますし、私たちはマイクの修理はできますが、真空管の修理はできません。そこで、ユーザーがどうすればNEUMANNのビンテージマイクを使用できるのかを考え、U 67やU 47、M 49の復刻版の開発に進むことになりました。

NEUMANN U67

NEUMANN U67

NEUMANN M 49 V

NEUMANN M 49 V

−マイクロフォン分野で、新しい製品の計画はあるのでしょうか?

ヤスミン ご存じかと思いますが、既に発売しているものとしては、小型の楽器用マイクMCM(Miniature Clip Mic System)や、SENNHEISERのワイヤレスマイクに装着できるカプセル、KMS 104、KMS 105があります。これらは、ステージ上でもNEUMANNのサウンドが得られるよう、演奏者やエンジニアを支援するものです。一方で、私たちは新しいマイクの開発にも取り組んでいます。おそらく今年の後半には発表できると思いますのでご期待ください。同時に私たちは市場を調査し、ユーザーと対話を重ねています。私は、お会いするすべての人に「今のワークフローにおいて、欠けているものはなんですか? 必要なマイクは何ですか?」と質問しています。そして、その答えの内容は変化し続けています。その過程で、私たちが"今後作るべき製品"を考察していきながら今後の開発を進めていきます。次回お会いするころには、もっと具体的なお話ができると思います。

クリップ・マイクのMCM(Miniature Clip Mic System)

−また近年、NEUMANNマイクの偽造品が出回っているということも時々耳にします。

ヤスミン ブランドが強ければ強いほど、その製品を模倣しようとする人が増えます。しかし、模倣品は単なる模倣品に過ぎません。本物のマイクを購入できる人は、わざわざ購入しないでしょう。あなたがマイク製作の技術を持つエンジニアで、NEUMANNのようなサウンドのマイクを作ろうとしているのであれば、それほど簡単ではないことがすぐに分かると思います。私たちのマイクの特性と安定性に達するのは、実に難しいことでしょう。NEUMANNのマイクの利点は、U 67、あるいはU 87など、どのマイクを2本購入しても、常にそれらをペアリングできるということなのです。一方で、大規模な偽造品の製造販売については、国際的に当局と協力して、それを防ぐ働きかけをしています。

−今回の来日中に、RIMEのお披露目を兼ねたImmersive Sound Vision 2025というイベントも行われました。

ヤスミン Immersive Sound Vision 2025は、私の日本滞在を締めくくるようなものです。私たちはこのイベントを、今回披露するRIMEをはじめ、NEUMANNの製品や施策について皆様からフィードバックを得る機会として考えています。NEUMANNユーザーの皆様の意見は、NEUMANNにとって重要な情報です。私たちが開発している製品や施策が本当に正しいのかを理解することができますから。NEUMANNはビンテージマイクを得意としていますが、私たちは何か新しいことを試したいと思っています。私たちは市場をさらに発展させたいのです。

ヤスミン・リチャーズ

Immersive Sound Vision 2025

Immersive Sound Vision 2025

 3月17日(月)に、東京・南青山にて開催されたImmersive Sound Vision 2025。客席はエンジニアをはじめとする多くの音楽関係者で満員となっていた。株式会社ノイジークロークのレコーディング/ミックス・エンジニア込⼭拓哉氏による、ゲームサウンド制作におけるDolby Atmosミックスのワークフロー解説や、RIMEの試聴デモなどが行われた。

NEUMANN NIGHTの様子

ヤスミン氏はイベント冒頭の挨拶で、“エンジニアが外出先でもイマーシブオーディオをモニターできること”、“アーティストがツアー中でもエンジニアの意図したサウンドを聴けること”、“スピーカー環境を整えられない初心者の方が使用できること”、以上の3点がRIMEの狙いであるという

込⼭拓哉氏の講演の様子

込⼭拓哉氏の講演。ノイジークロークのIMMERSIVE STUDIOではNEUMANN KHシリーズで7.1.4chの環境を構築しており、モニタースピーカーの補正システムMA 1と組み合わせることで定位をはっきりさせることができたという。込⼭氏は、「今後イマーシブサウンドでゲームの音楽を作る機会が増えていく中で、RIMEは有用になってくるだろう。実際にRIMEを使用してみたところ、KHシリーズと同様定位が分かりやすく感じた。今後の進化にも期待する」と語った

RIMEの画面

RIMEの画面。今回のイベントで試聴したのは『昭和⼀⼆四年』という動画作品(作:⾼橋 悠、効果⾳制作:パトリック・ケスラー/ノイジークローク、イマーシブミックス:込⼭ 拓哉)

NDH 20とMT48

RIMEの試聴体験は、ヘッドホンNDH 20とオーディオインターフェースMT48の組み合わせで行われた

 

NEUMANN

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