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Synthesizer V AI Megpoidが歌う「Forgotten Words 忘れじの言の葉 ft.GUMI」制作秘話〜砂守岳央(未来古代楽団)インタビュー

2016年、スクウェア・エニックスがスマートフォン用ゲーム・アプリとしてリリースした『グリムノーツ』。そのオープニングに用いられた未来古代楽団による楽曲「忘れじの言の葉」は大きな反響を呼び、ゲームのサービスが終了した今も、国内外で数多くのリスナーを獲得し続けている。そしてこの5月末に、ボーカルとしてDREAMTONICSの歌声合成ソフトSynthesi zer V用の、株式会社インターネットが発売する歌声データベース、Synthesizer V AI Megpoidを採用した英語歌唱バージョン「Forgotten Words 忘れじの言の葉 ft.GUMI」が発表された。自然で穏やかな歌声により、楽曲に新たな生命が吹き込まれた楽曲の制作やSynthesizer V AI Megpoidについて、未来古代楽団を主宰する砂守岳央に語ってもらった。

制限を設けた方が面白くなる

——2016年に発表した未来古代楽団による「忘れじの言の葉」は、歌い手のダズビーさんによるカバーがYouTubeで6,300万回以上再生されるなど、オリジナル以外にもさまざまな形で支持され続けていますね。

砂守 ある時期からよく“「忘れじの言の葉」っぽい曲を作ってください”と言われるようになって、何でだろうと思いながらふとYouTubeで検索してみたら、とんでもない再生回数のものが幾つか出てきたんです。最近はTikTok経由で10代の子とか小学生まで知っていたり、知らないうちに独り歩きしていました。そんなこともあり、未来古代楽団をちゃんと活動してみようとなったのが2年ほど前でした。

——未来古代楽団としてはいつ頃から活動を?

砂守 2015年辺りですね。それまでもチームでコライトみたいな形で作っていたので、作曲者を連名にするより名前を付けたら便利だし面白いんじゃないかと。ただ、来た仕事を未来古代楽団で受けているだけで、アーティストとしては活動していなかったんです。それを2年前から、“オフィシャル・サイトを整理する”“YouTubeチャンネルを作る”“SNSを運用する”“ライブをやる”という、新人アーティストなら最初にやるような活動からはじめました。ライブは昨年から2回やっていて、今後半年に1回ほど行っていく予定です。

——楽曲を制作する際にはメンバーの中で役割分担を行っているのですか?

砂守 作詞とプロデュースはすべて僕が担当しています。曲は今はメンバーの3人で書いていて、例えば僕の曲をアレンジだけ松岡(美弥子)に投げたりとかもします。誰が書いたフレーズなのかを覚えていないこともよくあったりで、普通のコライト作業よりわちゃわちゃと制作しています。

——DAWソフトは何を使っていますか?

砂守 メインはPRESONUS Studio Oneです。STEINBERG Cubaseもたまに使っていて、エンジニアとのやり取り用にAVID Pro Toolsもある。コンポーザーのうち、松岡はAPPLE Logic Proで、吉田(和人)はPro Toolsで全部完結しています。全員バラバラだから、データのやり取りが大変面倒くさい(笑)。何度か統一しようとしたんですが、ことごとく失敗して今に至ります。とはいえ、何でもやり取りできるとそれはそれで混乱するので、都度都度自分の環境に落とし込んでは人に見せられる形まで作る、という意識の方が僕らとしてはやりやすいかと思うようになりました。

——「忘れじの言の葉」はギター、ピアノ、ストリングスなど生楽器系の音がふんだんに使われています。

砂守 2016年版はすべて生録音です。2022年の再リリース版は音源も使っています。弦はSPITFIRE AUDIO Spitfire Chamber StringsやNATIVE INSTRUMENTS KompleteのCollector’s Editionに入っているもの、それから8DIOっていうアメリカのライブラリー・メーカーの音源もよく使います。8DIOは良くも悪くも雑というか、すごく生々しい音だけど、特定の1音だけ妙にでかいみたいなことがあったり、チュ
ーニングがわずかにズレていたり、奇麗にまとまっているものよりも人間味があって民族音楽調に合いやすいです。

——どこか懐かしさもあるというか、とても感情を揺さぶられる楽曲だと感じています。

砂守 未来古代楽団の物語として、未来に人類が滅んだ後、中世の文明レベルに戻ったときに遺跡から発見した音楽……つまりは現代の音楽なんですが、それを“未来の古代音楽”という形で捉えなおすというものがあり、その世界観からサウンドが生まれています。僕が一番影響を受けているのはゲーム・ミュージックのアーティストで、例えば植松伸夫さん。ゲームや映画のサントラがCD棚の半分以上でした。8ビット、16ビット時代の音楽のように音数が少なく、できることも限られた音楽を聴いてきたので、制限を設けた方が面白くなるという感覚はそこから来ている気がしています。

HAZE Recording Studio ANNEX。砂守および未来古代楽団が、2023年から制作に使用しているスタジオ。スピーカー構成は、NEUMANN KH 80から成る7.1.2ch仕様で、Dolby Atmos制作にも対応している(7.1.4chへの増設も検討中とのこと)。オーディオI/OはUNIVERSAL AUDIO Apollo X16。さまざまなシンセ、キーボード類は、主にメンバーの松岡美弥子の演奏/録音に使用しているそう。このほかにボーカル・ブースも用意されており、スタジオのレンタルも行っている

ハートでは筋の通った英語詞に

——今回「忘れじの言の葉」の英語歌唱バージョンを作ったきっかけを教えてもらえますか?。

砂守 この曲は海外からのアクセスが多くて、この前も急にベトナムのiTunes Storeの総合デイリー・チャートで2位になりました。そういうことがよくあるので、ならばちゃんと海外の人にリーチしたい。英語圏向けのVTuberさんとかもカバーしてくれているんですが、翻訳がちょっと違うと感じることもあり、だったら意図通りの英語版を出しておいた方が、みんなが幸せなんじゃないかなと。でも僕らはボーカリストがいないユニットだし、イメージにピッタリ合う英語圏の歌い手さんを見つけられる確率も低い。そんなときに、Synthe sizer Vなら英語でもすごく上手に歌ってくれるし、いけるんじゃないかと感じたんです。

——英語詞はどのように作成したのですか?

砂守 2017~19年辺りにDJとして海外を飛び回っていた時期があって、その頃できた海外の音楽仲間に翻訳者の方を紹介してもらいました。“原曲の歌詞を大事にしたい”と言ってもらえた上に、英語の歌詞として踏むべき韻をきちんと踏むようなルールをきっちり押さえていたり、時間をかけてすごく考えてくれたんだろうと思います。ちょっと意味がずれちゃう部分はあるけれど、ハートでは筋を通してくれている。僕からは、元の歌詞を守ることと、その上で“歌としてはこっちの方がいいけど、少し意味が変わっちゃうね”ということがあるとしたら、そのときは歌詞よりも歌を優先してください、というのは最初の時点で強くお願いしていました。

「忘れじの言の葉」のSynthesizer V AI Megpoidプロジェクト画面。0:26~の“Embraced”では、“brace”の“eh”の音節の、デフォルトでは狭かった間隔を広げている。こういった英語特有の音節を、曲に合うように時間をかけて調節していったそう。また、ボーカルスタイルはBalladeを150%に設定(青枠)。砂守は「Softもあるけれど、Balladeの方が柔らかい。声を張るときのニュアンスが異なります」と語る

難しい歌を遠慮せずにお願いできる

——普段の制作でSynthesizer Vは使っているのですか?

砂守 仮歌はほぼSynthesizer Vで作っています。仮歌って表に出ないのに一生懸命歌ってもらって、録音して、編集してと、もったいないとはずっと思っていたんです。それがSyn thesizer Vにしてみたらそのまま進行できることが多い。“これソフトですよ”って言ったら驚かれることも多いですね。未来古代楽団はコーラスを重ねる本数が多く、“まだいけるな”“もう聴き取れないかな”というのを、仮メロのシンセではなく歌で試せるのが本当に便利だと感じています。

——今回Synthesizer V AI Megpoidを選んだ理由は?

砂守 Megpoidはロックに合う印象が強かったんです。自分のデビュー・アルバムでもそんな使い方でした。でも『マクロスF』のサントラに中島愛さんが歌う「アイモ」という曲があり、あんな声が出せるならいけるなと思っていました。

——実際導入してみていかがでしたか?

砂守 出せる声の幅も広くて、思った以上でしたね。今回、声色を変化するボーカルスタイルのパラメーターは、基本Balladeを150%にして柔らかい歌唱にしています。

——調声では何か工夫を?

砂守 英語の発音を歌に合わせるのにコツがいるので、その調整に時間がかかりました。歌い方のニュアンスとかはほぼいじらずにベタ打ちです。ベタ打ちでも自然に歌うし、感情を想起させるところもあり、恐ろしさすら感じましたね。

——ボーカル処理は行っていますか?

砂守 声自体はすごく奇麗で、例えば素直なマイクとプリアンプを使って、EQを挿さずに録った音に近い印象です。それはそれでいいけれど、オケと合わせるときに倍音やひずみを加えて抜けてくるようにしています。こういう民族音楽的な曲って、ボーカルの帯域にかぶる楽器が多いんです。いわゆるポップスのように低域から高域まですみ分けられていて、ボーカルの領域が空いていてスパンと抜けてくるというのは絶対にできない。しっかり音を作らないとすぐに埋もれてしまうから、そこは結構気を遣っています。

——エフェクトには何を?

砂守 僕の方ではちょっとひずみを足したり、コンプやEQで下処理するくらいです。最近はFABFILTERのSaturnやPro Q 3の登場頻度が高いです。ミックスをお願いしたエンジニアの元木一成さんは10年以上ずっと一緒にやっていて、求めるものを分かってくれてうまく処理してくれています。

——Synthesizer V AI Megpoidは、ほかにもこんな楽曲に合いそうというイメージはありますか?

砂守 やっぱり声の幅が広いところが一番の長所だと思います。激しめ、かわいい、かっこいい、しっとり、切ないもいける。かなりの万能選手じゃないかなと思います。

——すごくクリエイティビティが刺激されそうです。

砂守 遠慮せずにお願いできるのがAIのいいところですよね。迷ったらやってみる。人間のボーカリストに“喉の負担が大きいけど、試しに難しいフレーズを歌って”ってなかなか言えないと思うんです。相手がAIのおかげで、ためらいなく踏み込んでいけるのがいいところなので、思いついちゃったら1回試す。そのうち今までにないものが生まれる。今度は逆に人間の歌い手がやり返すかもしれない。ネットではそんなサイクルで音楽が進化してきていると思っています。だから面白いアイディアはどんどん試したいですね。

砂守岳央(すなもりたけてる)

【Profile】無駄な高学歴を投げ捨て混沌の経歴を彷徨う吟遊詩人。ネット音楽の第一世代としてプロデュースを手がけた後、ライトノベル作家とアーティストとして同時デビュー。音楽以外にも、小説や漫画原作とマルチに活動。世界五大陸すべてでDJをした経験も持つ。未来古代楽団主宰。

【Release】

「Forgotten Words 忘れじの言の葉 ft.GUMI」
未来古代楽団
(Project TRI)
 

製品情報

Synthesizer V AI Megpoid

DREAMTONICSが開発する歌声合成ソフトSynthesizer V専用の、株式会社インターネットが発売する歌声データベース。歌手/声優の中島愛の声をベースに制作され、中島の声質と透明感のある自然な歌い方を再現している。歌声データベースごとに異なるパラメーターが用意されている“ボーカルスタイル”には、Ballade/Cute/Soft/Vividの4項目を搭載し、声色を調整可能だ。

Synthesizer V AI Megpoid

パッケージ版:10,780円、ダウンロード版:9,680円 (Synthesizer V Studio Basic収録)

Synthesizer V AI Megpoid Studio Pro スターターパック

パッケージ版、ダウンロード版ともに19,800円 (Synthesizer V Studio Proとのセット)

Requirements

  • Mac:macOS 10.13以降(AppleシリコンM acではM1以上のCPUが必要)
  • Windows:Windows 11/10以降(64ビット)
  • Linux:Ubuntu 20.04以降(64ビット)
  • 共通:INTEL Core I5以上または同等のAMDプロセッサー(AI音声の高品質編集時はINTEL C oreシリーズの第四世代I5(I5-4xxx)以上推奨、AMD Athlon X4 845以上、Ryzenシリーズを含む)、2GB以上のメモリ、1GB以上のストレージ空き容量

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