「UAはあらゆるユーザーに”スタジオ”を提供する」〜UAD Sparkについてメーカーが語ったこと

 UNIVERSAL AUDIOが今月発表したUAD Spark。プラグインの月間/年間サブスクリプション・サービスで、スタート時点では13種類のエフェクトと4種類のインストゥルメントが用意された。何より話題となっているのは、これまでDSP搭載ハードウェアを必要としていた同社プラグイン・システムに対し、UAD SparkではCPUネイティブで動作するプラグインが提供されるということ。その狙いを、同社インターナショナル・セールス・マネージャーのユウイチロウ“ICHI”ナガイ氏に聞いた。

UNIVERSAL AUDIOのユウイチロウ“ICHI”ナガイ氏

Voltユーザーやエントリー層に向けてUAの世界を提案

UAD Sparkで最初に提供されるUADxプラグイン群

−CPUネイティブで動作するプラグインのサブスクリプション・サービスとして、UAD Sparkを始めた経緯をあらためて教えてください。

ICHI 近年のUNIVERSAL AUDIO製品ラインナップを見ると、理解していただけると思います。最上位にアナログ・ハードウェアがあり、続く中〜上級者向けの製品としてApolloやUAD-2がありました。近年ではギタリスト向けにペダル・エフェクトのUAFXやロード・ボックスのOXなどもリリースし、エンジニアリングや音楽制作だけではなく、楽器演奏者のための製品も拡充しています。そして、今年Voltをリリースしましたが、そこで使えるUNIVERSAL AUDIOのプラグイン・エフェクトがこれまでありませんでした。

UNIVERSAL AUDIOの製品群におけるUAD Sparkの位置付け。ほかにペダル・エフェクトのUAFXやアンプ・ロード・ボックスのOXがある(編集部作成)

−DSP非搭載のVoltのユーザーにも、UADプラグインを使ってもらいたい、ということですね?

ICHI UNIVERSAL AUDIOでは、あらゆるレベルのお客様に対して、スタジオを提供したいと考えています。ハイエンドはアナログ機器があり、プロジェクト・スタジオにはApollo+UAD-2、そしてエントリー層に向けてVolt+UAD Sparkで、すべてのユーザー層に向けてスタジオ環境がやっとそろいました。もちろん、Voltユーザーではなくとも、すべてのDAWユーザーにUNIVERSAL AUDIOの“スタジオ環境”に触れていただきたいという意向もあります。

従来のUADプラグイン(左)は「Universal Audio」、UAD SparkのUADxプラグイン(右)は「UADx」に分類される。画面はLunaでの表示例

−つまり、UNIVERSAL AUDIOの考える“スタジオ”とは、まず伝統的なスタジオのサウンドである。それをビギナーにも提供したかったと。

ICHI そうです。私たちが製品を通じて考える目標は、どのレベルにおいても“スタジオを作る”ということ。それはオーディオ・インターフェースだけでは実現できないことです。Voltも、マイクプリのVINTAGEモードや76 COMPRESSORを録音時のツールとして用意していますが、ミックスやモニターにもそうしたスタジオ・プロセッシングの要素が必要だと考えて、UAD Sparkをリリースしました。さらに、CPUネイティブになったことで、Apollo/UAD-2はもちろんVoltさえお持ちでない方……すべてのお客様が、UADによるプロセッシングの世界に触れていただけるようになりました。ちなみに、UAD Sparkがサービス名で、UADxがプラグインのシリーズ名です。

Voltの検証をした動画。未視聴の方はぜひチェックを!

UAD Spark未加入でもUADと同じUADxプラグインが使用可能

−今までDSPで実現していたUADの技術を、CPU処理のUADxとして移植するのは大変なことなのでしょうか?

ICHI そうですね(笑)。UADxは新しいシェル・テクノロジーを採用し、従来のUADプラグインから比較的楽にUADxへ移植できるようになりました。UADxはAAX/AU/VST3対応です。ApolloやUAD-2で動作するUAD(DSP)プラグインはまだVST2なので、先んじてVST3対応となっています。また、ライセンス管理はLUNA Recording Systemと同様にiLokです。プリセット・ブラウザーも搭載し、タグでプリセット管理ができるようになっています。UADプラグインでは下にあったプリセット管理のセクションも、UADxでは画面上に移動しています。UADとよく似ているのは、試用期間中は無償で全機能を試せること。UADと違って、DSPハードウェアを必要としないので、Voltユーザーはもちろん、あらゆるDAWユーザーに使っていただけます。ぜひ皆さん、まずは試していただきたいと思います。

従来のUADプラグインの1176LN(Rev.E)。プリセットのロード/セーブや設定のコピーは画面下部で行う

UADxの1176LN(Rev.E)。設定のコピーはなどは画面上に。プリセット名を押すと、別ウィンドウでプリセット・ブラウザーが開き、タグで絞り込みも行える。なおこの画面は他社DAW上で表示したものだが、LunaではUAD/UADxのどちらもプリセットは画面左に表示される

−UAD-2やApolloユーザーが、DSP動作のUADプラグインとして既に所有しているものについては?

ICHI バンドルや、Apollo Heritage Edition、あるいは単体購入で所有しているUADプラグインは、同じUADxプラグインはサブスクリプションへ加入しなくても、無償で使えます。UAD Sparkの面白いところは、従来から使っていただいているお客様は、何もしなくても自分のシステムがどんどんDSP/CPUのハイブリッド化して、パワーアップが進みます。今後、UADxプラグインも増えていきますし、秋にはWindowsにも対応します。逆に、UAD Sparkにサブスクリプション加入していても、そのプラグインをUADプラグインとしてDSP環境で使うことはできません。

 

−UADプラグインとUADxプラグインでの処理は同一なのでしょうか?

ICHI 音声処理自体は同じなので、全く同じサウンドです。だから、それぞれで同じ処理したものの片方を位相反転して重ねれば、完全に音は消えます。

 

−UADとUADxで音が違うというコメントもネットで散見されますが……?

ICHI プラグインの種類によっては、アルゴリズムにランダム的な要素が含んでいるもの(注:ICHIさんはChaosと表現していました)があるんです。その意味では、同じUADプラグインで処理した場合でも、毎回結果が変わります。先程の“全く同じ”とは、そういうランダム要素が無いプラグインなら、という前提はあります。

一つの楽器を扱っているようなインストゥルメント

−UAD Sparkで提供されるプラグインは、エフェクトのみならず、インストゥルメントもあります。

ICHI はい。Moog MinimoogとRavel Grand PianoはLuna Instrumentsでも提供していたものですが、Opal Morphing SynthesizerとWaterfall B3 Organとは全く新しいものです。

アナログ・モデリングとウェーブテーブルを組み合わせた新開発のOpal Morphing Synthesizer。UAD Spark限定のプラグイン

トーンホイール・オルガンのWaterfall B3。ロータリー・スピーカーもモデリングで再現する

−例えばVoltを買ったユーザーがUAD Sparkに登録すると、Voltに付属のソフトに加えてインストゥルメントをそろえられると。

ICHI そこもやはり、ユーザーのニーズに合ったスタジオを構築して差し上げたいということです。ビギナーに向けては、一通りのものをUAD Sparkでそろえられるようにという意識はあります。インストゥルメントだけでなく、リバーブ、チャンネル・ストリップ、テープ・シミュレーターなど、すべてがそろう。

Luna InstrumentsとしてもリリースされているRavel Grand PianoもUADxで登場

−その目的のためなら、他社のインストゥルメントをバンドルする形でもよいのでは?とも思います。それでも自社で新たに作ったのはなぜですか?

ICHI インストゥルメントも、プラグイン・エフェクトと同じ哲学で作ったものです。まずは、リアル。サンプリングとモデリングを使って、リアリティを出すことを意識しています。その上で、ユーザー・インターフェースを簡単にして、一つの楽器を触っているかのような感覚をもたらすデザインです。量ではなく、質ですね。Opalはきちんとしたシンセなので、いくら頑張っても簡単にはできませんが(笑)、楽しく使えるようにデザインを頑張りました。プリセットが豊富なので、そこを起点にしていただきたいと思います。

UADプラグインやLuna InstrumentsとしてリリースされているMinimoogもUADxに移植された

−シンセのプリセット制作は、UNIVERSAL AUDIOとはまた別のチームが行っている?

ICHI そのためのチームにはもちろん専門家が居ます。もちろん、インストゥルメントのモデリングはUNIVERSAL AUDIOチームでやっています。例えばOpalはアナログ・モデリングとウェーブテーブルとのハイブリッド・モーフィング・シンセですが、内蔵エフェクトまでUADクオリティのモデリング・エフェクトです。楽器のモデリングも、徹底的に細部までやっています。だから、一つの楽器を扱っているようなフィーリングです。Ravelも、マイクを動かしたりもできますし、スタジオで作業しているような感覚はやはり大事にしています。Waterfall B3のロータリー・スピーカーも同様ですね。

UADプラグインのランキングを元に最初のラインナップを選定

−UAD Sparkに最初に投入したプラグインのラインナップは、どのように決められたのでしょうか? 既にUADプラグインの中でも人気なものが多いようですが。

ICHI UADプラグインの人気ランキングが大きいですね。使っているユーザーの多いものを、優先して選びました。あとは先程申し上げた機能面。API Visionは、チャンネル・ストリップとして全部の機能を備えたものですし、リバーブはやはり2種類を使い分けるべきだろう、と。ディレイは、普通のデジタル・ディレイはDAWのプラグインでもあるでしょうからテープ・エコーがよいだろうという判断もあります。コンプも、ボーカル、楽器、トータルを意識したチョイスです。これだけあれば、ミックスを格段に向上できると思います。

 

−今後、UAD Sparkへの新規プラグインの追加はどのような頻度で?

ICHI もちろん今後増やしていきますが、どのくらいのペースかは申し上げられないです。ただ、UAD Sparkの世界には、もう一つパーツがあります。UA Connectというソフトウェアです。Voltの管理ソフトとして登場したものですが、UAD Sparkの登録/アップデートにも使用しています。ドライバーやプラグインのアップデートも全部管理してくれます。例えばUADソフトウェアでは、アップデートの際に新しいプラグインが複数種類加わるといったことが多いですが、1つのプラグインだけでもアップデートしていけますし、自分でWebサイトからアップデーターをダウンロードしなくてもいいわけです。こういった面でも、ビギナーのワークフローを意識しています。

管理ソフトのUA Connect。プラグインのインストールやアップデートが一括して行える。macOSのFinderのメニュー・バーからアクセス可能

ビル・パットナムから受け継がれる“スタジオ構築”の伝統

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まもなく発売となるStandard Seriesのマイク(左)、TOWNSEND LABSから継承したモデリング・マイクSphere L22(中央)、今秋発売予定のハイエンド・マイクBOCKシリーズ(右)

 

−UAD Spark以外に、最近ではマイクもアナウンスされましたね。

ICHI マイクも3グレードを用意しました。従来TOWNSEND LABSブランドで発売されていたSphere L22は、1つのスタジオでいろいろできるようにという配慮をした製品。ハイエンドのBockラインもすごく良いので、期待してください。BOCK AUDIOをけん引してきたデヴィッド・ボック氏は、マイク・リペアマンとして有名で、LAの有名なアーティストのマイクを数多くメインテナンスしてきた人物ですから、プロから依頼されてきたモディファイも製品に反映されています。安いマイクではありませんが、価格に対するバリューに優れたものだと思います。

 

−ボック氏がUNIVERSAL AUDIOへ加わった理由は?

ICHI UNIVERSAL AUDIOはハンドメイドで真空管機器を製造していますし、製造規模もある程度大きい。ボック氏としてもそのメリットを感じたわけです。Sphere L22についても、TOWNSEND LABSは最初からパートナーとして良好な関係を結んできました。共通して言えるのは、ただUNIVERSAL AUDIOでマイクロフォンを作るのではなく、スタジオ・システム全体のフィーリングを作ろうという目的です。そもそもビル・パットナムSr.は、スタジオを造った人ですから。そして、スタジオの機能が時代とともに変わっていったことによって、現CEOのビル・パットナムJr.がUADやApolloを作った。これがスタジオになったと言えます。

 

−なるほど、UNIVERSAL AUDIOはスタジオの中身をずっと作ってきたわけですね。

ICHI それとスタジオのワークフローを、ですね。Voltにもその流れが見えますよね。今後、マイクのStandard Seriesに併せて、Apollo Consoleのプリセットも用意します。例えば、女性ボーカル向けのセッティングなどを、プロ・エンジニアが作っています。それをロードすれば、いろいろ楽しめるようになりますね。

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