スタジオグリーンバードの響きを遺す

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Text:iori matsumoto

惜しまれながらクローズするレコーディング・スタジオ
エンジニアをはじめとする有志で“空間のサンプリング”

 

 東京・新宿のスタジオグリーンバードが、この3月をもって閉業した。面積60㎡、天井高5mのブースを備えるStudio 1をはじめ、ミックス&ダビング用のStudio 2、バンド・レコーディングにも対応するStudio 3という3部屋を備え、バンドからサントラまで、さまざまな作品がレコーディング&ミックスされてきた。その功績を形に遺そうと、レコーディング・エンジニアの古賀健一氏の呼びかけによって、“空間のサンプリング”とも言えるIRデータの収録が実現。多くの業界関係者が協力し、グリーンバードの響きをキャプチャーすることとなった。

 

 IR収録当日は、Quad(4chサラウンド)収録も行うために、岡瀬晶彦、冨田和彦、田中修一という、映像音声の分野で活躍するエンジニア諸氏が古賀氏をアシスト。音楽界からは中村研一、林可奈子、藤原暢之ほかエンジニア各氏が参加した。アーティストも現場に自ら足を運んだASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文、そしてOfficial髭男dismの藤原聡ら、多くの面々が呼びかけに賛同している。

 

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左から田中修一氏、古賀健一氏、岡瀬晶彦氏、冨田和彦氏。スウィープ音の音量を確認しているところ


 プロジェクトの進捗に併せて、2通りの収録方法を行う方針が固まった。一つはAUDIO EASE Altiverbのプリセット収録方法に準拠する形。収音に使うマイクはDPA MICROPHONES 4006、IR再生のスピーカーはGENELEC 1032、そのほかスピーカーとの距離や高さなどの要件があり、これらをクリアすべく機材を調達した。一方、NEUMANN M49、SCHOEPS CMC55-Uといったグリーンバード常設マイクのほか、NEUMANNのダミー・ヘッド・マイクKU100や、三角形の振動板を持つEHRLUND EHR-Mなども用意され、通常のレコーディングで使われるであろうさまざまなポジションでのIR収録も試みられた。

 

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スウィープ音を再生するスピーカーは、GENELEC 1032A。Mono-StereoとStereo-Stereoを想定して3基用意されたが、実際には最も状態の良い個体を使い回した

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AUDIO EASEの指定するDPA MICROPHONES 4006(下)に加え、グリーンバードに4本そろっていたNEUMANN M49(上)もIR収録に使用。4006はゲインを厳密にそろえるためにRME Fireface UFXの内蔵マイクプリで、それ以外のマイクはグリーンバードの音を得る目的でNENE VRのヘッド・アンプを使用した

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NEUMANNのダミー・ヘッド・マイク、KU100もスタンバイ

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レスポンスに優れた最新鋭マイクとしてEHRLUND EHR-Mも持ち込まれた。そのほかグリーンバードのAKG The TubeやSCHOEPS CMC55-UもIR収録に使われている



 そうした背景もあり、現場は無数のマイクと、前述した協力者、さらには機材協力を申し出たメーカー/代理店の関係者が結集。マイク・セッティングに多くのエンジニアが協力しながら、Studio 1ブースの縦方向/横方向、Studio 3ブース、さらにはプレート・リバーブEMT 140の響きを収録した。

 

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AVID Pro ToolsとAUDIO EASE Altiverbが立ち上がるAPPLE MacBook Proの下に、Fireface UFXを設置。奥にはABENDROTのマスター・クロックEverest 701が用意された

 

 収録したIRデータは、Altiverb用ユーザー・プリセットとしてグリーンバードのWebサイト(http://studiogreenbird.com/)で配布中。当初は、本稿で挙げたセッティングでのStudio 1&3のMono-StereoとStereo-Stereoが用意されており、QuadとEMT 140も準備が整い次第、公開される予定とのことだ。歴史あるスタジオの響きを体感し、録音という創造行為の尊さをあらためて考える機会にしてほしい。